クラウドという言葉が使われるようになってからかなり経ちますし、実際にiPhoneなどでiCloudを利用したり、パソコンやスマホからGoogleドライブ等を利用しておられる方もおられるでしょう。
しかし、クラウドと言っても様々なサービスが存在し、新たなサービスも増えてきました。そんな今だからこそ、クラウドについて解説したいと思います。
クラウドとは、正確にはクラウドコンピューティング(Cloud Computing)のことを指します。
クラウド(Cloud)は、英単語としては空に浮かぶ雲のことですが、何故、インターネットを使ったサービスをクラウドコンピューティングと呼ぶようになったのでしょうか?
語源については諸説ありますが、共通しているのは、ネットワークをイメージ図に記すときに雲のような形の図形を用いることが多かったという点です。その図形は、溯れば1977年のARPANET(インターネットの起源)でも使われていたようです。
実際にクラウドという言葉が使われ始めたのは、2000年代に入ってからで、2006年にGoogle CEOのエリック・シュミット氏が公の場で最初に使ったと言われています。
クラウドという言葉が使われる以前は、ASP(Application Service Provider)という名前で同様のサービスが提供されていました。ASPは、現在では、SaaS(Software as a Service)という言葉に置き換えられつつあります。ちなみにSaaSは、「サース」と発音します。以前は、「サーズ」と呼ばれることもありましたが、SARS(重症急性呼吸器症候群)と混同しやすいということで「サース」のほうが定着したようです。
また、似たような言葉にPaaS(Platform as a Service)やIaaS(Infrastructure as a Service)というものがあります。
SaaSは、アプリケーションソフトウェアの提供を行うサービスですが、PaaSはデータベースシステムやAPI(Application Programming Interface)など開発環境の提供を行うサービスで、IaaSは仮想マシンなどのハードウェア資源の提供を行うサービスです。以前は、HaaS(Hardware as a Service)と呼ばれていました。AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)といった仮想マシンを提供するクラウドサービスがIaaSに分類されます。
前項で解説したようにクラウドコンピューティングのサービスには、SaaS、PaaS、IaaSといった分類がありますが、具体的にどんなことができるのか、何故、クラウドコンピューティング(以下、クラウド)が注目されているのかを書きたいと思います。
クラウドは、新しい概念ではありますが、できることは従来とそう変わりません。
例えば、社内に置いてあったサーバが無くなり、代わりにクラウドサーバに置き換わる。今までは、CDからインストールしないと使えなかったソフトがブラウザ上で使えるようになる、というような違いです。
では何故、ユーザーから見てできることはそう変わらないのにクラウドが注目されるのでしょうか?
それは、当然のことながらメリットがあるためです。
コストに関しては、サービスによるため一概にメリットとは言えませんが、クラウドサービスの料金は、サブスクリプション方式(月額または年額払い)であることが多いため個人でも十分に支払える程度の金額だったりします。
よくクラウドのメリットとして挙げられるのは、BCP(事業継続計画)への効果です。
自社でサーバを設置している場合、地震などの自然災害や火災、機器の故障、盗難などでサーバ上のデータが消失してしまう可能性があります。その点、クラウド上に保存されたデータは消失する可能性が低いです。何故なら、サービスにもよりますが、クラウド上のデータは、世界中に分散して保存されていたり、定期的にバックアップを行うデータセンター上に保存されるため、データは格段に安全だと言えます。
つまり、クラウドの有効利用のひとつとして、クラウドストレージを使ったデータの保存が挙げられます。
では、クラウドのデメリットはなんでしょうか。
デメリットの一つとして最初に挙げるとすれば、動作が遅いという点です。
これは、利用者のインターネット環境にも依存しますが、やはりインターネット上にあるサービスを多人数で利用するわけですから、HDD内やLAN内のサーバに置いてあるアプリケーションやデータなどを利用するのに比べて動作が遅いのは当然です。
次にインターネットに障害が発生すると使用することができないという点も大きなデメリットです。滅多に起きることはありませんが、スタンドアロンで動作するソフトウェアに比べるとトラブルの発生率が高いことは間違いありません。
SaaS
SaaSとは、クラウド型のアプリケーションソフト提供サービスを指します。
ASPと呼ばれていた頃とはアプリケーションの数が段違いです。今では、基幹業務系からオフィスソフトに至るまで、様々なアプリケーションソフトのクラウド版が登場しています。
ここで重要なのは、支払い方法です。最近、よく聞くサブスクリプション方式というものは、月額利用料制のような一定期間ソフトを利用する権利を購入する方式のことです。サブスクリプションとは、定期購読という意味だそうです。
これまでは、アプリケーションソフトを使う場合、パッケージソフトを購入してCD-ROMなどからパソコンにインストールして使うのが普通でした。
しかし、クラウドアプリケーションは、アカウントを購入して月額利用料等を支払うことで、インターネットに接続していれば、ソフトウェアをダウンロードして使用することができます。
この性質を利用することで、パソコンの環境をあまりカスタマイズしなくても同じ環境で利用することが可能です。特にGoogle Appsのようなブラウザベースのアプリケーションは、ブラウザを起動してログインするだけで同じ環境を再現することが可能です。これは、パソコンが故障したときなどにも有利です。新しいパソコンにソフトを入れ直す必要もありません。更にクラウドストレージへデータを保存していれば、故障したパソコンからデータを取り出す必要もないのです。突然、パソコンが壊れて中のデータが取り出せなくなった経験のある方でしたら、このメリットが分かるでしょう。
具体的なSaaSは、GoogleのG Suite(Gmailやカレンダー等)やMicrosoft Office 365などが有名です。サイボウズOfficeのような国産グループウェアも大半がクラウド対応になっています。
PaaS
PaaSは、ソフトウェアを構築および稼動させるための土台となるプラットフォームを提供するクラウドサービスのことです。SaaSとの違いは、SaaSではアプリケーションソフトを使うエンドユーザーが利用するサービスですが、PaaSは、ソフトウェア開発者やシステム担当者が利用するサービスという点です。
具体的なPaaSは、Google App EngineのようなWebアプリケーションのためのAPI群(エンジニアリングパーツ)が代表的です。Excelで作成した表を簡単にデータベースに変換できるサイボウズの「kintone」もPaaSに分類されます。
IaaS
最後にIaaSに分類されるサーバのクラウド化について解説します。
これまでのような社内に設置するようなタイプのサーバは、クラウドに対し「オンプレミス」と呼ばれます。この単語は、クラウドよりも更に新しいようです。というか、クラウドに対するレガシー的な意味合いで使うために作られたものかもしれません。クラウド化が叫ばれるようになり、クラウドに対する「従来の方式」を指す言葉が必要になったのではないでしょうか。
サーバをクラウド化するメリットの一部は、先ほど解説いたしましたが、サーバにもいろいろな種類があります。ファイルサーバ、データベースサーバ、Webサーバ、メールサーバなどが一般的ですが、この中でクラウドサーバへ移行するのに適しているのは、データベースサーバでしょう。ファイルサーバは、クラウドストレージで代用できます。
また、Webサーバやメールサーバを社内に置いている会社は少ないと思いますが、現在利用されているレンタルサーバ等をクラウド化することは可能です。VPSやクラウドサーバへ移行することもできますし、メールサーバは、GmailのようなSaaSクラウドサービスを利用することも可能です。この場合のメリットは、メールのセキュリティが大幅にアップします。ウイルスメールや迷惑メールが一掃されるので、毎日迷惑メールが数多く届いて業務に支障があるような場合にはお勧めです。
具体的なIaaSは、AmazonのAmazon Web Services(AWS)の「Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)」 、Microsoftの「Microsoft Azure」、GoogleのGoogle Cloud Platform(GCP)の「Google Compute Engine(GCE)」が有名です。
VPS
VPS(Virtual Private Server)とは、レンタルサーバの一種です。
一般的なホスティングサービスは、一つのサーバを多くのユーザーが共有して利用する形態をとっていますが、VPSは、1台のサーバに複数の仮想マシンを動作させて、利用する形態のことです。一台のサーバを丸ごとユーザーが占有するサービスは、専用サーバーやマネージドサーバと呼ばれています。
VPSは、一台のサーバを丸ごと占有するわけではなく、仮想マシンを一台まるごと占有するサービスです。実際には、複数のユーザーが同じサーバー上で仮想マシンを稼働しています。
IaaSのクラウドサーバも似たような方式なのですが、こちらは、ハードウェア資源を細かく分解して自由に組み合わせることが可能となっています。ユーザーから見れば似たようなサービスなのですが、クラウドサーバは、一台のサーバ上で仮想マシンを動作させているのではなく、世界中に分散されたハードウェア資源を組み合わせて仮想マシンを構築しているものと考えてよいと思います。実際には、提供している会社によってその辺りは違うのですが、上記の3社のような世界的な企業が提供するクラウドサーバはそんなレベルです。
VPSとクラウドサーバの違いとしては、VPSではサービスを切り換えることでマシンスペックを変更する(サービスごとにCPUの数やメモリ容量、ドライブ容量が決まっている)ことは可能ですが、クラウドサーバでは、細かくスケールアップ/ダウン(サーバの性能を変更する。VPSと違いマシンスペックを細かく指定することが可能)やスケールアウト/イン(サーバの台数を変更する)を行うことが可能となっています。クラウドサーバは、ロードバランサー(負荷分散装置)やバックアップ機能が標準で使える点もVPSとの違いとして挙げられることが多いです。
また、利用料金がVPSは、どれだけ使っても月額固定という料金体系が普通ですが、クラウドサーバはデータ転送にかかる料金が従量制であることが多いです。クラウド破産という言葉がありますが、それは、この従量制の料金体系によって引き起こされるのです。
ここでは、著名なクラウドサービスを紹介します。
G Suite
Googleが提供するSaaS型のクラウドサービスです。以前は、Google Apps(グーグル アップス)と呼ばれていましたが、G Suiteに名称が変更されました。
Webブラウザベースのアプリケーション群を利用できるだけではなく、組織内で情報を共有するグループウェアの機能があります。Gmailも独自ドメインのメールアドレスを利用可能です。
Googleのアカウントを持っていれば、Googleアプリを無料である程度までは利用可能ですが、G Suiteでは、グループウェアの機能があるという点が大きく違います。
また、通常のグループウェアと違う点としては、組織外のメンバーとも情報の共有が可能な点です。例えば、ドライブ内にある特定のファイルを取引先にも閲覧できるように設定したり、取引先の担当者と共有できるカレンダーを作成して、お互いのスケジュールを確認したりといったことも可能です。
種類 | 無料の Googleアカウント |
G Suite Basic |
G Suite Business |
G Suite Enterprise |
---|---|---|---|---|
料金 | 無料 | 月額600円 | 月額1,200円 | 月額3,000円 |
ドライブ容量 | 15GB | 30GB | 1TB (5アカウント 以上で無制限) |
1TB (5アカウント 以上で無制限) |
ビジネス用のGmail | 利用不可 | 利用可能 | 利用可能 | 利用可能 |
ドライブファイルストリーム | 利用不可 | 利用可能 | 利用可能 | 利用可能 |
Cloud Search | 利用不可 | 利用不可 | 利用可能 | 利用可能 |
監査機能 | 無し | 無し | 有り | 有り |
ログイン時の セキュリティキー |
無し | 無し | 無し | 有り |
G Suiteは、個人的に利用していますが、Gmailのスパムフィルタの能力や、クラウドストレージのドライブは重宝しています。反面、カレンダーやドキュメント、スプレッドシート等のアプリは、個人用のツールとしては、代替できるものが他にもあるので、コレを使わないといけないというほどのものではありません。
ドライブは、バックアップストレージとしても有用ですが、ドライブファイルストリームを併用すると、外付けハードディスクのような感覚でクラウドストレージを利用することができます。
具体的には、ドライブファイルストリームをインストールすると、Windows ExplorerやMacのFinderのようなファイルマネージャから直接、ドライブ上のファイルを操作することができるようになります。
通常、クラウドストレージは、ハードディスク上で同期されるような使い方が多い(Googleドライブもバックアップと同期ではそうです)のですが、そういった方式の場合、ローカル側にも同じ容量のストレージが必要になってしまいます。
ドライブファイルストリームでは、キャッシュファイルはローカル側に作られるものの、ドライブ内のファイルと同じ容量のローカルディスクは必要ありません。また、キャッシュファイルは、一旦、ログアウトすることで削除することができます。
G Suiteには、Basic・Business・Enterpriseと3種類のプランが用意されています。
BasicとBusinessの違いは、ドライブの容量がBasicが30GB(無料版は15GB)なのに対して、Businessは1TBと30倍以上も増えています。また、Google Vaultの監査機能が標準で使えます。他にも検索機能のCloud Searchが使えるなどの違いはありますが、大きな違いはドライブの容量でしょう。ドライブの容量は、GmailやGoogleフォト等でも消費されるため、容量の全てをドライブとして利用できるわけではありません。(Googleフォトは、写真を圧縮して保存する場合は無制限ですが、オリジナルの画像ファイルで保存する場合にはドライブの容量を消費します)
Enterpriseの違いは、セキュリティとコンプライアンスの強化です。ドライブの容量等は同じなので、セキュリティや企業コンプライアンスに気を遣う大企業が利用するためのプランだと思います。
Microsoft Office 365
Microsoftが提供するSaaS型のクラウドサービスです。
このサービスは、最新のMicrosoft OfficeをPCやMacに5アカウント、タブレットに5アカウント、スマホに5アカウントと合計15アカウント利用することができるというのが一番の売りだと思います。
つまり、Microsoft Officeを買い取りではなく、月額や年額払いのサブスクリプション方式で利用するものという側面が強い気がします。(私はそんな感覚で使っています)
OneDriveも1TBの容量が付属しますが、ドライブファイルストリームのような便利な利用方法が無いので、もっぱらバックアップ用のクラウドストレージという感じです。
種類 | Office 365 Solo |
Office 365 Business |
Office 365 Business Premium |
Office 365 Business Essentials |
---|---|---|---|---|
料金 | 年額12,744円 | 月額900円相当 (年間払い) |
月額1,360円相当 (年間払い) |
月額540円相当 (年間払い) |
Outlook | ||||
Word | ||||
Excel | ||||
PowerPoint | ||||
Publisher | ||||
Access | ||||
OneNote | ||||
OneDrive | ||||
Skype | ||||
Exchange | ||||
SharePoint | ||||
Microsoft Teams | ||||
OneDrive容量 | 1TB | 1TB | 1TB | 1TB |
メールのホスティング | 利用不可 | 利用不可 | 利用可能 | 利用可能 |
Web会議 | 利用不可 | 利用不可 | 利用可能 | 利用可能 |
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